ここでは各教科に共通する改訂のポイントをご紹介し全体像を掴んでいきます。
今回の改訂は全部で8つのポイントが挙げられます。
目次
①知識・暗記型から思考型へ
②ページ数が増加
③対話文が頻繁に登場
④単元の冒頭にゴールを明示
⑤日常生活との結びつき
⑥教科ごちゃ混ぜ合教科型
⑦デジタル教科書とICT化
⑧最も影響を受けるのは新中3生
一つずつ詳しく見ていきましょう!
今回の教科書改訂の背景には「大きく変化していく未来の社会を生き抜いていく力を身に付けさせたい」という国の方針が反映されています。これまでの学校教育(テスト・受験を含む)で重要視されていたのは「どれだけの知識を暗記できたか」であり、勉強=暗記という構図が教育の主流でした。極論「知識さえ詰め込んでおけばある程度の点数が取れてしまう」「“大化の改新”という言葉を覚えておけばその中身や本質を理解していなくても〇がもらえる」これが実際の状況だったのです。
しかし時代は変わりました。急速なデジタル化やAIの台頭、環境問題やエネルギー問題、労働力問題などを含めたグローバル化、さらには高齢化が進む一方での人口減少など、現代社会は目まぐるしく変化しています。その中で私たちは様々な文化や価値観を持つ人々とコミュニケーションを取っていかなければなりません。
この状況を受け、これからは知識偏重型の教育から「思考力・判断力・表現力」(学力の3要素)の育成が必要だという考えが支持されるようになり、2021年4月中学校の教科書改訂が行われることとなったのです。同様に、大学入試改革(センター試験の廃止・共通テストの誕生等)や2020年度に行われた小学校の教科書改訂もこの流れに沿って行われている施策に挙げられます。
しかしいくら「思考力・判断力・表現力」が大事とはいえ十分な知識を身に付けることの重要性は今も昔も変わらない真理です。前提として知識がしっかり備わっていなければ柔軟な思考もままなりません。従って、新しい教科書は各学年とも「十分な知識量を確保した上で学力の3要素も伸ばしていく」という考えに沿って構成されています。
今回の改訂では国・数・理・社の4教科の学習量においては大きな変化はありません。とはいえ現行の教科書でも「ゆとり」時代に比べれば約1.4倍の学習量があり、改訂後は1.5倍を超えるとされています。
では最も変化が大きい教科は何か…それは「英語」です!
英語は質・量ともに「激変」といっても過言ではないほどの大改訂が行われます。今まで高校で学習していた内容が中学校に下りてきたり英検1級レベルの単語が出てきたりと、質・量ともに圧倒的なボリュームアップが見られます(詳しくは英語編をご覧ください)。英語が苦手な子にとって2021年度はまさに正念場といえる年になるでしょう。
もう一つ特筆すべきことは、学習量が増えたからといって学校の授業時間は増えないという点です。ただでさえ多忙を極める現場の先生方にこれ以上の負担が増えれば今度は過労や退職といった別の問題に発展しかねません。従来の時間枠の中で本当に指導が終えられるか、教師間で進度にバラつきが出ないか等、今回の改訂を巡って様々な課題も懸念されています。
ここからはより具体的に新教科書の中身を探っていきましょう。
新しい教科書では複数の生徒が話し合いながら学習を進めている様子やキャラクターが「見方・考え方」を示すなど、対話の場面がふんだんに取り入れられています。これは他人の意見を聞いたり自分から発言したりすることの大切さ、ひいてはこれからの社会で必須となるコミュニケーションスキルを自然に意識させるためと言えるでしょう。最近の入試問題を見ても「対話型の問題」は全国的に増加傾向にありトレンドとなっています。
新しい教科書では各単元の冒頭で「年間を通して何を学ぶのか」「これを学ぶことで何ができるようになるのか」がより明確に示されるようになります。学習でつまずいてしまう一要因に「今何を勉強しているのかが分からない」という点が挙げられます。勉強もスポーツも「ゴール地点が見えるから頑張れる」は共通の心理です。過酷なマラソンもどこまで走ればいいかが分かっているからこそ最後まで頑張ることができます。こういった工夫が今回の改訂には多く取り入れられています。
新しい教科書では勉強した知識が日常生活を支えるものとなることを目的としています。学習内容をリアルな生活と結びつけることで「こんなの勉強したって何の役にも立たないでしょ…」「将来使うのかな…」といった学習意欲の低下を防ぐ工夫が各教科に施されています。
【日常生活との結びつきの例】
☆数学…「方程式」を使って合唱コンクール当日のクラスごとの休憩時間を算出
☆公民…「クレジットカードの仕組み」や「電話で注文したピザは自宅に届いてからでもキャンセルできる?」等、リアルな生活と絡めた問題 が登場
☆国語…思考の整理の仕方として「マインドマップ」や「ベン図」等、実際のビジネスのシーンでも使えるツールが登場
新しい教科書では他教科との結びつきも強く意識されています。例えば数学の中に社会の要素が出てきたり英語の中に理科が出てきたり、これは生徒たちに知識の広がりと繋がりの感覚を持たせるための工夫といえるでしょう(これを合教科型【ごうきょうかがた】と呼びます)
したがって、2021年度以降は「数学の点数を上げたかったら数学だけ勉強すればいい」から「数学の点数を上げたかったら数学だけでなく国語も英語も理解も社会も勉強しなきゃいけない」という考えがスタンダードになっていくことが予想されます。
【合教科の例】
☆英語の中に理科の「食物連鎖」が登場
☆理科の中に国語の「百人一首」が登場
☆数学の中に社会の「選挙結果の予測」が登場
デジタル教科書とは紙の教科書と同じ内容を揃えた電子書籍です。生徒はタブレット端末を用いて画面上で教科書に書き込んだり部分的に拡大したりと、様々な操作をすることが可能となります。
文科省は2019年12月に「GIGAスクール構想」というプロジェクトを立ち上げ、1人1台の端末及びネットワーク環境の整備やデジタル教科書の普及を推し進めています。当初は2022年度までに3クラスに1クラス分程度の端末を整備する予定でしたが、新型コロナの影響で休校措置が長引いたこと、また、その際オンライン授業へ移行できた学校は僅か5%しかなかった(全国学習塾協会調べ)という実情から教育のICT化は喫緊の課題となりました。
今後はwebコンテンツが充実し、学習の効率化が進んでいくことが期待されています。
最後のポイントとして押さえておきたいのは今回の教科書改訂で最も影響を受けるのは「新中3生」(2021年4月に中3になる学年)という点です。この学年は中3で新しい教科書による授業を1年間受けただけで高校入試を迎えなければなりません。教科書が変わるということは学習指導要領が変わる、いきおい入試の傾向も変わるということを意味します。
更にこの学年が高校1年生になる時(2022年度)に今度は高校の教科書改訂が行われます。そしてその3年後には大学入試改革の「本格実施」が待ち構えています。2021年1月、センター試験の後継である共通テストが始まりましたが、実は2023年度までの共通テストは「先行実施」という位置付けで行われます。「本格実施」が始まるのが2024年度、つまり新中3生が新しい教科書で高校3年間授業を終えたタイミングがその初年度となるのです。この時には「先行実施」で骨抜きとなった記述問題や英語4技能(民間試験の導入)等、今とは異なる新たな入試制度となっている可能性が大いに考えられます。
これらのことから、教科書改訂と入試改革初年度というダブルパンチを経験する新中3生はまさに「激動の世代」といえるでしょう。
今回のこの改訂について、アップステーションでは方向性自体はとても良いものだと考えています。これからの社会で活躍していくにはすなわち「自ら考え行動する力」が欠かせません。知識だけでなく思考力も育成していくという考えは支持されるべきものであり、その理念に沿って構成される新しい教科書はまさに学力の資本となるものです。
一方で、学校の現場がこの変化に対応していけるかが大きな課題として残ります。新年度が始まり新しい教科書が渡され、しばらくは生徒・教員間で混乱が生じることは避けられません。先述の通り教科書のページ数は増えても授業時間が増える訳ではないのです。その結果授業の進度・ペースが早くなり、本来生徒の学力を伸ばすための教科書が逆に学力格差を生む引き金となってしまうことも考えられます。そうならないためにも、2021年度以降は現場の対応力が今まで以上に問われることになるでしょう。
だからこそ私たち学習塾に求められる役割も今まで以上に大きくなると自覚しています。学校の授業に遅れを取らないようにするのはもちろんのこと、そこでしっかりと結果を出していくには生徒一人ひとりへのきめ細やかな指導が欠かせません。アップステーションではこれからも「学校の先取り授業」「生徒自らが考える授業」を通して成績アップという結果に繋げ、地域で一番前向きに通える塾であるための努力を続けていきます。