
英語の改訂ポイントは全部で4つです。
目次
①単語量が1.5倍に増加!
②高校の内容がおりてくる
③日常生活との結びつき&合教科
④中1最初のテストから「二極化」のおそれ
一つずつ詳しく見ていきましょう!




英語が「大改訂」となったワケ
今回の教科書改訂で質・量ともに最も大きく変化するのは英語です。その背景にあるのは何と言っても急速に進むグローバル化に他なりません。業種や職種を問わず、たとえ海外に行かなかったとしても英語をコミュニケーションの道具として使いこなすことが一層求められます。その根底には高齢化による労働人口の減少、外貨の獲得に乗り出さなければ日本の経済力はどんどん先細りになってしまうという喫緊の課題が根付いています。今後は英語で書かれた論文を読んだり海外の人とテレワークでオンライン商談をしたりといった場面もますます増えていくでしょう。
その一方で、文科省が掲げる目標の1つに①中学卒業までに英検3級 ②高校卒業までに英検準2級 の生徒の割合をそれぞれ50%以上にするというものがあります。
実はこの10年で中高生の英語力は以下のように全体的に上昇しました。
2011年 | 2019年 | |
①の生徒 | 25.5% | 44.0% |
②の生徒 | 30.4% | 43.6% |
文科省はこれを一定の効果が見られたと評し、2022年度までに50%に到達することを掲げています。
これらの状況を受け、今回の改訂では単語の質・量が一気に増えることになりました。確かに教科書のレベルが上がることで全体の学力が底上げされるという効果は見込まれますが、一方であまりにも難しくなり過ぎた教科書を前についていけなくなる子・困惑してしまう子へのケアも忘れてはなりません。新しい英語の教科書は過去に類を見ない程レベルアップしており、中には英検1級レベル(難関大学レベル)の単語も見られるほどです。もともと英語が好きだったのに教科書が変わったことで苦手になったという生徒が増えてしまっては本末転倒です。英語は一度つまずいたら取り戻すのが中々難しい教科です。手遅れになる前に早目の対策を心掛けることが一層大事になっていくでしょう。
全ての単語を覚えなきゃいけないわけではない!
とはいえ、これら全ての単語を使いこなせるようにならなければという訳ではありません。英語教育には「受容単語」と「発信単語」という2種類の単語が存在します。前者は「読めればOK」の単語で、難度の高い語や普段あまり使う機会のない語がこれに該当します。日本語でもたとえば「薔薇」や「癒し」などは書けなくても読むことができれば日常生活に支障はありません。
一方、後者は書く・話すを含め「使いこなせなければならない単語」です。日常でよく使う語や英検3級レベルの語がこれに該当します。
大切なのはその子が目指すレベルによって受容単語なのか発信単語なのかが変わるという点です。全ての単語を覚えようとするのは現実的ではありません。「読めればいい単語のスペルを一生懸命練習してた」ということが起きないためにも、目標に応じて「受容」か「発信」か、適切なジャッジをすることがこれからの英語学習に必須のスキルと言えるでしょう。

単語と同様、文法事項でもこれまで高校で扱っていたものがおりてきます。代表的なものとして「使役動詞let の用法」「仮定法」の2つが挙げられます。
高校英語を使えるようになることで外国の人とコミュニケーションを取るときに自分の伝えたいことをより正確に表現できるようになります。例えばPlease let me know~とほぼ同じ意味の表現としてtell me~という語句が従来の教科書にもありました。しかしtell me~だと「教えてよ!」と少し強めの表現となるため初対面の人や目上の人と接する際の言い回しとしては適切ではありません。そこで、意味はほぼ同じですがtell me~よりもソフトなニュアンスになるPlease let me know~が追加されたという訳です。
このような変化を「覚えることが増えて大変…」と捉えるか「微妙なニュアンスまで英語で伝えられるようになるんだ!」とプラス材料として捉えられるかがポイントです。


他の教科と同様、英語でも日常生活との結びつきや合教科(他教科とのミックス)が随所に散りばめられています。
例えば「ネイティブの先生との初めての出会い」という定番の場面設定でも、新しい教科書にはただ単に「歓迎の気持ちを伝えよう」ではなく「初対面の相手に配慮しながら」という条件が加わりより日常に即した内容にリニューアルされています。他にも買い物の際に国産野菜と輸入野菜のどちらを選ぶかといったよりリアルな場面設定が多く扱われています。
合教科の例として挙げられるのは理科・社会とのミックス、中でもSDGsと結びつけたテーマが目立ちます。SDGs(エス・ディー・ジーズ)については「社会編」で詳しくご紹介しますが、一言で表すと「2030年までに達成すべき全世界共通の17個の目標」のことを指します。これは2015年に国連で採択され、私たちの生活の中にもレジ袋の有料化やストローの廃止等を通して徐々に浸透してきました。貧困問題や環境問題等、世界規模で取り組むべき課題はいずれもこのSDGsにちなんだものと言えます。
英語の教科書でも「世界がもし100人の村だったら」という実在の書籍を取り上げて貧困問題に繋げたり、食物連鎖を用いてフードロスや環境問題をテーマにしたりといった構成が多く見られます。これらは今まで社会や理科の教科書で扱われていたテーマですが、合教科型・教科横断型の流れが強まった新教科書ではこのように他教科との関連性が強く意識されています。これからは「英語の点数を上げたかったら英語だけ勉強すればいい」という訳にはいかなくなるでしょう。普段から様々な分野にアンテナを張っておくことが肝心です。

英語のポイントの最後に挙げるのは新中1生向けの内容です。
定期テストのデビューを飾る「中学1年1学期中間テスト」。今まではどの地域においても英語の平均点が最も高く80点を超えることも珍しくありませんでした。その理由は中学進学と共に全員ヨーイドンで英語が始まり、最初のテストはアルファベットと簡単な単語をいくつか書ければ高得点が取れるものだったからです。
しかし小学校で英語が正式な教科となり教科書改訂が行われた今、状況はガラリと変わりました。先述の通り小6までに600~700語の単語が必修となり、授業は「小学校で習った英語がちゃんと理解できている」ことが前提で進みます。したがって小学英語でつまずきや取りこぼしがある場合はスタート時点から大きな差をつけられてしまう可能性があるため特に注意が必要です。もしかしたら1学期最初のテストで早くもついていける子とそうでない子の「二極化」が生じ、「5教科の中で最も平均点が低いのが英語」という現象も各地で発生するかもしれません。
「最初の英語は簡単」「アルファベットが書ければ大丈夫」という概念はもはや通用しないということを心に留めておくことが大切です。