新大学入試の全容vol.8 ~推薦入試・AO入試はどうなるの?~

これまでは主に独自試験(一般入試)について触れてきましたが、大学への入学方法は一般入試だけではありません。ここでは、2020年度以降の「推薦入試」「AO入試」について見ていきたいと思います。

推薦入試・AO入試とは…

まずはこの2つの違いを簡単に説明していきます。

推薦入試

・原則として学力試験は無し。高校に推薦状を書いてもらう必要がある。

・大学が出願を受け付ける高校を指定する「指定校推薦」と、大学が定めた応募条件をクリアできれば誰でも出願できる「公募推薦」の2種類がある。

【指定校推薦】

・大学が高校に「あなたの高校のこんな生徒をうちに入学させてください」という仕組みなので、面接等はあるものの出願すればほぼ間違いなく入学できる。

・ただしハードルが高い。高校3年間を通して評定平均(通知票の5段階成績)で「4.0」以上が条件という場合がほとんど。

・募集人数も少なく、1つの高校につき1~4名ほどしか募集しない場合が多い。また、高校のレベルによって指定校推薦の出願ができる大学も変わる。

・もし条件をクリアしていたとしても自分より良い成績の子が同じ大学を出願していたら枠をとられてしまう。(例えばA大学の指定校推薦枠が「1人」で、評定平均が4.2の太郎君と評定平均が4.3の花子さんが出願した場合は花子さんに枠が与えられる。太郎君は別の受験方法でA大学を目指さなければならなくなります)

【公募推薦】

・指定校推薦よりはハードルが低く枠も多いが、やはり評定平均◯◯以上が条件なので、3年間良い成績をキープしておくことが大事。

・面接や小論文を課すところが多い。

・スポーツ推薦、一芸一能推薦など大学によって様々。中にはセンター試験を課すところも。

AO入試

・原則として学力試験は無し。また、高校からの推薦の必要も無し。出願条件を満たしていれば誰でも自由に応募できる。

・学力試験だけでは測れない才能や適性を、主に志望理由書と面接などで判定。

・面接がもっとも重視されるポイント。複数回行われることも。

・将来のビジョンをしっかり持っている人は、その情熱をアピールできる入試。

・AOとは「アドミッションズ・オフィス」の略で、本来は選考の権限を持つ「アドミッションズ・オフィス」という機関が行う、経費削減と効率性を目的とした入試と言われている。

ハードルの低さから言うとAOが最も出願しやすく、次いで公募推薦、最もハードルが高いのが指定校推薦ということになります。特に指定校推薦は試験無しで入学できるので非常に魅力的ですが、その代わり高校3年間で常に良い成績をキープしておかなければなりません。

いずれも共通しているのは、一般入試と比べて出願時期が早く、年内には合格発表が行われるという点です。

ではこれらが、2020年度以降どのように変わっていくのかを見ていきましょう。

 

変更点① 名称が変わる

まずは名称が変わります。

推薦入試 → 学校推薦型選抜

AO入試 → 総合型選抜

となります。ちなみに一般入試も「一般選抜」という名称に変わります。

いずれも「選抜」という名前がついていることから、あくまでも大学側が主導権を握って受験生の資質を見定めるという姿勢が見られます。

これにより、大学側の求める学生像(アドミッション・ポリシー)も今後はより明確になっていくでしょう。

 

一時は「廃止案」も浮上した推薦・AO入試

さて、そんな中推薦とAOはどうなるかというと、実は両者とも一時は「廃止」も検討されました。

というのは、学力試験を課さず大学側の独自の基準で行われていたため結果的に学生の学力低下を招いてしまったからです。

「分数の計算ができない大学生」は笑えない実話です。

また、年内には合格が決まるため残りの高校生活を遊びほうけてしまう・一般入試を控えている子たちとのモチベーションに差が出てしまう等の懸念も顕著に見られるようになりました。

実際、夏休み明けの9月以降になると推薦やAOで早々と合格を決めた子が出てきます。

同じ教室の中に「年内で合格を決めた組」と「3月まで受験が続く一般入試組」がいるのはあまりにも残酷です。もともと一般入試での受験を考えていた子も、推薦・AO組の姿を見て「いいな~、俺も早く楽になりたいな~」と気持ちが揺らぎ結局「AOでいいや」と妥協してしまうケースも少なくありません。

秋になると自動車教習所が受験を終えた高校3年生たちで混雑する光景はもはや風物詩です。

これに対し、高校・大学側も遊んで過ごさせないようにセンターを受験させたり事前課題を与えたり等の対策を講じてきましたが、あまりうまく機能しているとは言えません。

こうして思いっきり羽を伸ばし切った後、4月に新大学1年生として入学式を迎えます。当然、学習習慣などはとうの昔に忘れ去られているので惰性のまま大学生活をスタートすることになります。

「学力だけではない評価をしたい」という観点から発足した推薦・AOが結果的に学力低下を招いてしまったのは皮肉な話ですが、これが廃止案浮上の理由です。

しかし議論の末、それでも「全人的な評価を」という意見が支持され存続が決定しました。

 

変更点② 何らかのテストが必須になる

 

この表のとおり、2020年度からの最も大きな変更点は推薦・AO共に何らかのテストが行われる点です。

「各大学が行う評価方法」(=小論文、面接、プレゼンテーション、実技、資格・検定等)、または「共通テスト」(=センター試験の後継テスト)を受けるか、この辺りは大学ごとに異なりますがテストが必須であることは確定路線です。 

もちろんこの目的は先述した学力低下の防止です。推薦もAOも今後は「学力不問」の時代ではなくなります。

これと同時に、「入学前教育」の充実も急がれています。

推薦・AOで「年内に合格を決めた組」に向けてこれまでは事前課題などを大学側が与えたりしていましたが、今後は高校と大学の連携をより強めて大学4年間の学習計画の提出や高校の復習などを課すことが検討されています。

もしかしたらそれを必修扱いにして大学1年次の単位に反映させるという大学も出てくるかもしれません。

 

変更点③ 調査書の内容も変わる

高校・大学の連携といえば、調査書の書き方にもメスが入ります。

↑「調査書」には3年間の成績(通知票)、出席日数、部活の実績、委員会の活動等が記載され、大学側はこれを重要参考資料として選抜を行います。

中でも評定平均値は重要なデータになりますが、この数値の出し方もこれまで長く疑問視されてきました。

高校の成績の付け方は「絶対評価」なので、高校ごと・先生ごとに評価の付け方が異なり不公平が生じる恐れがあるからです。

高校の先生といえど人間です。全ての生徒を客観的な目で見て100%適正な評価を付けるのは難しいでしょう。

また、偏差値50の高校で「5」をもらった子が偏差値60の高校でも「5」が付くかというと決してそうではありません。

やはり偏差値が高い高校ほど好成績をとるのは難しくなります。しかし大学側が見るのはあくまでも調査書に載っている数値なので、ここに不公平が生じてしまいます。

これを受けて文科省は「評定平均値」を「学習成績の状況」という名称に変えて不公平を無くそうという方針を決めました。その具体的な方法はまだ発表されてはいませんが、受験生をより公平かつ適正に評価したいという考えであることは間違いありません。

 

もう1つ、調査書の中の「指導上参考となる諸事項」という項目も改訂されることになりました。

「指導上参考となる諸事項」とは主に部活や学校外活動の記録が記載される欄ですが、今までは各学年に数行程度のスペースしかなく、内容も漠然としたものでした。

しかしそれではきちんと評価ができないということで、「各教科・科目の学習における特徴」「行動の特徴・特技」「部活動・ボランティア活動・留学経験」「資格・検定」「表彰・顕彰」「その他」の6項目に分けスペースも拡充することが決まりました。

さらに、調査書自体も今までは両面1枚という縛りがありましたがこの制限も無くなります。

 

するとどんなことが予想されるか。

 

まず、実績が多い子とそうでない子の差が一目瞭然になります。

実績が多い子は、これまでの書式では書けなかったものまで余すところなく記載できるようになります。逆にそうでない子は「少なさ」が目立つようになるでしょう。びっしりと書かれたものとスカスカのものとでは印象が大きく変わります。

次に、何とか見栄えをよくするため「何でもいいからとにかくたくさん書いて実績を多く見せる」ものも出てくるでしょう。しかしそれを防ぐため大学側は具体性をより強く求めています。

例えば部活に関しては実際の活動期間を併記したり、いつどんなコンクールでどんな賞を受賞したのかが分かる記録を添付したり、一定レベル以上での具体的な記載が求められるようになります。

 

入学前教育や調査書の改定などを通して、2020年度以降は高校側の負担も増えることは間違いありません。

 

~まとめ~

・推薦入試→学校推薦型選抜 AO入試→総合型選抜 一般入試→一般選抜 とそれぞれ名称が変わる。「入試」ではなく「選抜」となることから、大学側が資質を見定めるという姿勢が見られる。

・推薦・AOともに何らかのテストが課されるようになる。また、入学前課題も増えることが予想される。→学力低下の防止

・調査書の書き方もより具体的に・より充実した内容へと変わる。→実績が多い子とそうでない子の差が顕著になる

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