新大学入試の全容vol.5 ~英語の共通テスト~
さて、肝心の英語はどうなるのでしょうか。
実は、2024年度以降の「本格実施」より英語は共通テストから姿を消すことが発表されています。なぜなら英語の技能を共通テストという枠組みの中で測るのはもう無理だという判断が下ったためです。詳しく見ていきましょう。
英語の4技能「読む」「聞く」「話す」「書く」
英語は従来のセンター試験(に限らず高校・中学でも)において「読む」ことが最重視されてきました。
どの高校入試問題や大学入試問題を見ても、大半を占めるのは「長文読解」です。
例えばセンター試験は250点満点のうち約150点分が読解問題です(文法が50点・リスニングが50点)。つまり「読む」ことができるかどうかが英語の得点を大きく左右してきたのです。読解には単語の暗記がものをいいますので、ここでもやはり暗記重視の勉強が根付いていることが分かります。
しかしこれからの時代、英語を「読む」だけでは対応していけません。今後は様々な国籍を持った人たちと自分の意志を英語で伝え、英語という道具によって協働性を構築し共に問題解決に向こう姿勢が必要とされます。
そこで文科省が定める英語の4技能「読む」「聞く」「話す」「書く」の習得が急がれることとなりました。「これからの時代は英語を読めて聞けて話せて書けなきゃダメだ」ということです。
現状を見てみると、英語の点数が90点の子は50点の子よりも使いこなせるのか・外国人から道を尋ねられたら的確に答えられるのかと言ったらそうではありません。日本人は中学から大学まで10年間も英語を勉強するのに全く喋れないと言われる所以です。
教える立場の人間も「英語の勉強って本来こういうもんじゃないよな」という疑問を抱きながらこれまで読解重視の指導を続けてきました。アメリカの大学生にセンター試験の英語を解かせたところ半分も取れなかったというのは何とも不思議な実話です。彼らは皆口を揃えて「こんな難しい問題が解ける日本人に英語が通じないなんておかしい!」と嘆いたそうです。
こういった状況を踏まえ、英語は受験教科である前に「言語」なんだから、暗記するだけのものではなく自分の意志を伝える道具として使いこなせるようにしなければならないという風潮が近年高まりました。
小学校にALT(ネイティブの先生)がやって来たりセンター試験でリスニングが導入されたのもこの流れの一端です。
そして2020年度からは本格的に4技能「読む」「聞く」「話す」「書く」を測れる入試制度にしようという方針が固まったのです。では具体的にどんな制度になるのか見ていきましょう。
共通テストでは4技能を測ることは不可能…
「読む」「聞く」は何とかなっても「話す」「書く」のテストをするのは困難です。
これについては多くの議論がなされましたが、結論から言うと50万人が受ける一斉テストで「話す」「書く」を測るのは無理となりました。
問題は作れなくないのでしょうが採点システムがネックです。「話す」は面接のような人間同士の対話形式でこそ成り立ちますし、「書く」は英作文形式になります。これを50万人一人ひとりに行い採点していくのは…人件費・負担・日数の面から現実的ではありません(何しろセンター試験は2次試験の出願に間に合わせるため数日後には全員分の採点を終わらせないといけません)
そこで、英語は「民間の力を借りよう」ということになり「資格・検定試験を利用」することが決まったのです。
資格・検定試験とは英検やTOEIC(トーイック…世界規模で行われる英語技能検定)などの外部試験のことで、これらは原則「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を網羅したものになっています。
例えば英検は長文読解(読む)、リスニング問題(聞く)、面接試験(話す)、英作文問題(書く)で構成されています。これを高3の4月~12月までの間に2回まで受け、その結果を共通テストの英語の成績として用いるという方針が決まりました。そうすれば共通テストで4技能を測る手間が省けます。
しかし、とは言ってもいきなり2020年度からこのやり方で始めてしまうと混乱を招くのは明らかですし、検定を受けてきた子とそうでない子の間で不公平が生じてしまいます。
そこで、共通テストが本格実施となる2024年度を初年度とし、先行実施の間(2020年度~2023年度)は共通テストでも英語の試験を課すこととなったのです。
ただし気を付けなければいけないのはその後の大学独自試験(一般入試)です。詳しくは後述しますが、共通テスト後に受ける大学独自試験では、2020年度から資格・検定試験の利用が認められるようになりました。(実はすでに民間の資格・検定試験を利用している大学はどんどん増えています)
資格・検定試験と共通テスト、その「両方」を使うかあるいは「どちらか一方」になるかは大学側が決めるとされていますので、例えばA大学は「検定+共通テストの合計点」、B大学は「検定のみ」、C大学は「共通テストのみ」という具合に分かれることが予想されます。
いずれにせよ、今後更に検定の需要が高まるのは間違いありません。
英検やTOEICなどを高校生になっても積極的に取りにいくことが大事になります。
バラバラの採点基準はどうするの?
さて、そうすると1つの疑問が生まれます。そうです。資格・検定試験はそもそも評価の仕方がバラバラなのです。
例えば英検はご存知の通り「点数」ではなく「級」です。一方、TOEICは1390点満点、TOEFL(トフル…TOEICと同様に世界規模で行われている英語技能検定)は120点満点のテストです。これでは
「英検2級を取った子とTOEIC600点を取った子ではどっちの方が成績良いの?」
という混乱が生じてしまいます。他にも資格・検定試験は多く存在します。
そこで、それらを公平に測定するためCEFR(セファール)という基準を導入することが発表されました。
CEFRとはもともヨーロッパの言語(フランス語やドイツ語など)をどれだけ修得できているかを示す物差しで、その人の言語能力がA1→A2→B1→B2→C1→C2の6段階のレベル(C2が最高)で表されます。
ちなみにCEFRとはCommon European Framework of Referenceの略で、「ヨーロッパ言語共通参照枠」と訳します。
A1は「簡単な自己紹介ができる」レベルで、C2は「ネイティブと同様ほぼ完璧に使いこなせる」レベルです。
例えば、「私は英語はC1、フランス語はB1、そしてドイツ語はA2です」と言うと、それぞれの言語がどれくらい使えるのか相手に伝わります。
国境を越えた就職など人々の出入りが激しく第3外国語で仕事をすることも珍しくないヨーロッパでは、日常で使われている物差しです。
このCEFRを用いて各種資格・検定試験の成績を評価しようという方針が決まりました。
~まとめ~
・英語は4技能「読む」「聞く」「話す」「書く」を測るテストへと変わっていく。
・共通テストの代わりに英検やTOEICなどの資格・検定試験を利用。高3の4月~12月の間に予め受けておく。
・資格・検定試験はCEFRの基準に換算して評価する。